Q.認定看護師(脳卒中リハビリテーション看護)を目指したきっかけは?

松村師長

私は矢木脳神経外科病院に入職して、脳外科の患者様を初めて担当する事になりました。 突然脳卒中を発症され、後遺症が残るかも知れない状況で、患者様もご家族も動揺し大変な中、その人たちに私が何をしてあげたらいいのか・・・とても迷い、その思いが蓄積されていきました。脳神経外科病院で看護師として働く上で「知識や技術など、何も持たずにここにいてもよいのだろうか」という考えに至り、自分の看護師としての幅を広げることにも繋がるのではと思い、認定看護師を目指しました。

梅田看護部長

脳卒中を発症した患者様の多くは後遺症が残ります。後遺症が残ると、出来ない事が増えて今迄の生活が出来なくなったり、少しでも元の生活に戻れるようになるために、新たに習得すべき事が多くなったりします。 例えば、以前担当させて頂いた40代ぐらいの女性の方は、トイレに行けるようになったことなど、1つでも出来る事が増えると嬉しそうに報告してくださいました。そのような患者様と日々接する中で、自分の知識・技術不足を痛感し、自分にもっと知識や技術があれば、もっとしてあげられることが増えるのではないか、自分の知識不足によって患者様の人生を左右してしまう可能性もあるのでは無いかと考えるようになりました。知識・技術を身に着ける事で、より多くの事に気が付くことが出来、患者様のために出来る事を増やしたいと思い、認定看護師を目指しました。

Q.実際に認定看護師になって気づいたことは?

松村師長

認定看護師になるためには、教育課程で研修を受ける必要があります。6~7か月間病院を離れ、研修を受けました。座学や実習・筆記試験に合格すると、認定看護師と認められます。

梅田看護部長

研修を受け始めると、「こんなに自分は何もわかっていなかったんだ」と自分の無力さに気付かされました。研修を受けた事で、患者様に対する考え方が全く変わりました。

松村師長

実際、認定看護師としての知識が無くても、日々の看護の仕事は出来ます。毎日やっていると、出来ている気になってしまいます。けれども、その看護が本当に患者様のためになっているのか・・・知識がある事で、より患者様にベストな介入が出来る様になります。また、患者様の観察ひとつとっても、どういう意図でそれを観察するのかがわかっているのといないのとでは気付ける事が違ってきます。例えば、ADL(日常生活動作)の介助において、患者様はどういう障害が残っていて、どういう力は残っていて、どの力を引き上げようとしているのか等をわかっていないと、トイレ介助ひとつとっても全く変わってきます。

梅田看護部長

深い知識が無かったとしても、介助は出来ますし、もしわからなかったらリハビリスタッフに聞いたり、お願いしてしまう事もできます。また、認定看護師以外の一般の看護師さんの中にも多くの知識を持った方も沢山いらっしゃいます。認定看護師の有無で看護の質を線引きする事は出来ませんが、これくらいの看護は出来るから良しと終えてしまうのか、それとも知識があるお蔭で、もっともっと・・・と気付けるのか違いが出ます。自分自身も認定看護師教育課程の研修に行って「もっとこんなことも考えないといけないんだ!」とわかりました。知識を身に着けたからこそ、自分が分かっていない事も明白にすることが出来、もっと勉強するようになり、ただ学んだだけではなく、より深くアセスメントしていかないといけないんだなと気付きました。

Q.認定看護師を取得するにあたって、周りからの声はどうでしたか?

梅田看護部長

自分はこの病院で最初に認定看護師を取ったので、「認定看護師ってなに?」と言う雰囲気でした。その中でも認定看護師を目指そうと思えたのは、上司からの「行ってきなさい。」という後押しがあったからです。また、職場を離れて教育課程に行っている間も給与が出たり、休みを与えられたりといった、認定看護師を目指せる環境作りやサポートが整備されていたからです。

松村師長

他の病院の場合だと、本当は行きたくても行けない人は大勢いると思います。大きい病院であればあるほど、行きたい人も多いし能力が高い人も多いです。 けれども環境が整備されていない為、行きたいなら休職扱いで勝手に行きなさいという病院もあります。
私が認定看護師を取得する時は、支援やサポートを沢山してもらいました。既に梅田が認定看護師として活動していましたので、患者様の看護だけでなく、スタッフの教育などの活動の様子をそばで見ることができ、梅田の力になりたいと感じていました。私も自分の事だけではなく、スタッフの教育にも関わり、この病院全体の看護の底上げ・モチベーションアップが出来ればと思いました。

梅田看護部長

自分に続いて松村が認定看護師を取得したのは嬉しかったです。 組織の中で何か改革や教育をしようとした時に、同じ志を持った存在がいる事はとても心強いです。認定看護師を取得したとしても病院としての活用方法を知らないと、能力を十分に生かすことが出来ません。より能力を活かせるように共に認定看護師の事をアピールし、認定看護師を目指す人が増えたり、病院の看護の更なるレベルアップに繋がっていくと良いと思っています。
また、認定看護師を取得したことで、周りの反応もより信頼してくれているなという言動を、直接や周りから聞けるようになったかなと思います。リハビリのスタッフと連携したりもしますし、先生の態度も信頼してくれているなと実感できるようになりました。

Q.認定看護師としてのこれからについて

梅田看護部長

認定看護師として、スタッフへの研修も行う上で、もっとみんなの為になる研修が出来たらなと模索しています。

松村師長

座学はやる気のある人は自分でも勉強出来ることです。研修時間も限られているので、研修が、自発的に勉強に取り組むきっかけになったらいいなと思いながら研修を行っています。研修の時にいつも「研修をただ受けただけではすぐに出来るようになったり、わかるようになるわけではない。研修で得たものを現場に持ち帰って、現場で活かすことで自分のレベルを上げる事に繋がる。研修で得たものを持ち帰って現場で一つでも実践してください。」と伝えています。

梅田看護部長

研修にただ教えてもらおうと思って来たらダメだと思い、考え方を教えて、一緒に考えるような研修をしています。

松村師長

認定看護師教育課程の研修もただ教えてもらう感じではないです。看護を教えてくれるというよりは、自分たちで調べて考えて発表する形式の研修で、考え方や考えるという姿勢を身に着けることが出来ました。自分も元々は受け身で教えてもらうという感じが強かったですが、認定看護師の教育課程に行ったら、自分でどんどん動いて考えていかないといけないなという考えが強くなりました。自分がスタッフに対して研修を行う時も、実践的なシュミレーションなどの研修を増やしていきたいなと思っています。そして、認定看護師として自分が活動する事で、病院の看護師の更なるレベルアップを図れればと思っています。
スタッフへの研修も段階を踏んでレベルアップ出来るように設定しています。新しく入職してくる看護師全員に、脳卒中や脳卒中治療についての講習、その上でこんな看護をしたいという想いを伝える研修をしています。そのため新しく入っても、脳卒中について知識を身に着けられる環境作りをしています。

梅田看護部長

次の段階としては、脳卒中の神経症状がどういう風に出るのか、その患者様をどう看させていただくのかという研修をしています。実際に模擬の患者様を題材に、この症状は何の病気だろう・・・どんな看護が必要だろう・・・などを考える研修です。さらにその上の段階である認定看護師の院内認定では、自分自身がわかっていることは前提で、周囲のスタッフをどういう風に指導していくのか。なるべく同じ人に何段階かに分けて研修を受けてもらう事で、より知識が定着するようにしています。

研修を受ける事で何か残ってくれたらと思いながら、どんな研修がより良いのか私自身も模索しています。研修を開催すると、参加者から「楽しかった」と言う声も聞くと、自分自身も楽しいです。研修が自主的に勉強したり本を開いてみるきっかけになって、その姿勢が定着してくれたらいいなと思っています。

松村師長

研修を受けた人が、研修資料を使いながら仕事をしている姿を見ると、私も嬉しいですし、研修を実施するモチベーションになっています。

Q.脳卒中連携パスについて

松村師長

他の病院大阪市の色々な病院の認定看護師が集まる、脳卒中連携パスの認定看護師のワーキンググループがあります。大阪市内にある急性期や回復期の病院や維持期のクリニックが加盟し連携しています。その会議では、病院の垣根を越えてどう活動していこうか話し合いをしています。脳卒中は急性期だけでは完結しない場合が多いので、そこをどう看護で繋いでいけるかを話し合い、勉強会の開催などをしています。
脳卒中連携パスの入退院支援パンフレットも作成しています。通常、病院内だけで使用するパンフレットで患者様へ指導をしていると思うのですが、脳卒中連携パスWGで作成したパンフレットであれば急性期から回復期、維持期へと継続して使用することができます。例えば患者様が急性期の病院から回復期の病院に移る際、そのパンフレットを持っていくことで回復期の病院で回復期の看護師さんがそのパンフレットを使いスムーズな流れで看護ができます。最終的にはそのパンフレットを家に持ち帰る。そういった流れの入退院指導が出来れば、という活動にも力をいれています。

Q.これから認定看護師を目指す人へのアドバイスを

梅田看護部長

認定看護師の取得は大変でしたが、仕事がより楽しくなりました。スタッフの指導などやる事は確かに増えましたが、知識・技術が増える事で今までよりも考えることが増えたり、看護の幅が広がることで、より深く関わる事が出来るようになり、充実感や達成感をより感じるようになりました。

松村師長

「楽しいは大変の裏返し」だと思います。大変な思いをして一生懸命やったからこそ「やっと出来た!楽しい!」となるんだと思います。どうしたらいいだろうと悩んだり、どんな研修をしたらみんなにわかりやすいだろうと考えて取り組むからこそやりがいを感じるのではないかと思います。

梅田看護部長

認定看護師の研修に行こうと思うと研修に6~7ヶ月行かないといけないので、院内で認定看護師を育てようという取り組みもあります。公益社団法人 日本看護協会が行っている認定看護師とは別に、矢木脳神経外科病院内で独自に「認定看護師の院内認定」という研修と資格制度を設定しています。参加希望者に話を聞くと「ここまで深く考えて看護出来ていなかった。より考えながら行うと楽しい」と言う声もありました。 また、院内の他部署と勉強会を開く事も増え、部署間のコミュニケーションが増えたことも良い効果だと思います。


今後、認定看護師がもっと増えて欲しいです。「ここまでの看護で大丈夫」と思ってしまうのではなく、もっと上を目指していける空気が広がるといいと思います。

松村師長

そして認定看護師が増えることだけではなく、みんなの意識が高くなることでコアとなる人が増え、スタッフ全体、病院全体の力の底上げになっていくと思います。

認定看護師になりたい!と思う人は、矢木脳神経外科病院に来たら、後押ししてくれるし、それを支援してくれます!やる気のある人はここに来て、ここでやりたい看護を実現出来ます。また、そのような方が来て下さる事も希望しています。

梅田看護部長

高齢化が進んできていますので、脳卒中以外にも摂食・嚥下障害や感染管理、認知症などの他の分野の認定看護師も増えたらと思います。認知症、感染や褥瘡など・・・全てが関係していますし、それぞれがお互いの知識を活用して協働する事で、さらにこの病院の看護の力の底上げに繋がっていったらいいなと思います。